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大阪地方裁判所 平成元年(わ)1172号 判決 1990年6月25日

本店所在地

大阪府高槻市栄町二丁目一九番八号

サカエ商事株式会社

(代表者代表取締役 安間俊三)

本籍

大阪市東淀川区淡路四丁目二七六番地

住居

大阪府吹田市南清和園町三番三一号

会社役員

安間俊三

昭和二年四月二三日生

右サカエ商事株式会社に対する法人税法違反、右安間俊三に対する法人税法違反、所得税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官梶山雅信出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人サカエ商事株式会社を罰金八〇〇万円に、被告人安間俊三を懲役二年及び罰金八〇〇〇万円に処する。

被告人安間俊三においてその罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人安間俊三に対し、この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人サカエ商事株式会社(以下、単に「被告会社」という。)は、大阪府高槻市栄町二丁目一九番八号に本店を置き、不動産の売買・仲介・賃貸等を営む資本金一二〇〇万円の会社、被告人安間俊三は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人安間俊三は

第一  被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、昭和六〇年四月一日から同六一年三月三一日までの事業年度における実際の所得金額が八〇三二万七六九九円(別紙<1>修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、公表経理上、架空の買換資産特別勘定を計上するなどの行為により所得を秘匿した上、同年五月二九日、大阪府茨木市上中条一丁目九番二一号所在の所轄茨木税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が六六九万九二〇二円で、これに対する法人税額が一八七万五七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の法人税額三三五九万六六〇〇円と右申告税額との差額三一七二万九〇〇円(別紙<2>税額計算書参照)を免れ

第二所得税を免れようと企て

一  昭和五九年分の所得金額が六四七四万八三七二円(別紙<3>修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、継続して有価証券を売買したことによる所得の全てを除外するなどの行為により所得を秘匿した上、同六〇年三月一五日、大阪府吹田市片山町三丁目一六番二二号所在の所轄吹田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一三二五万二三九〇円で、これに対する所得税額が六七万四四〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額二九二六万円と右申告税額との差額二八五八万五六〇〇円(別紙<6>税額計算書参照)を免れ

二  昭和六〇年分の所得金額が一億一九三万九六九九円(別紙<4>修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、前同様の行為により所得を秘匿した上、同六一年三月一五日、前記吹田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一三五五万三一三二円で、これに対する所得税額が七〇万三六〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額五二七八万九九〇〇円と右申告税額との差額五二〇八万六三〇〇円(別紙<6>税額計算書参照)を免れ

三  昭和六一年分の所得金額が四億四七九万四四七〇円(別紙<5>修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、前同様の行為により所得を秘匿した上、同六二年三月一六日、前記吹田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一六〇三万二一三八円で、これに対する所得税額が一一三万八〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額二億六五一〇万七一〇〇円と右申告税額との差額二億六三九六万九一〇〇円(別紙<6>税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人安間俊三の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の被告人に対する質問てん末書一四通(検察官請求分証拠等関係カード番号69、71、74、89、95、108、110、113、115、119から121、127、130。以下、括弧中の算用数字は、同カード中の番号を示す。)

一  収税官吏作成の岩崎喜代恵(50)及び亀井克宏に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書三通(21、25、26)

判示第一の事実について

一  収税官吏作成の被告人に対する質問てん末書二四通(70、72、73、75から88、90から94、96、137)

一  収税官吏作成の岩崎喜代恵(48、49、51から54)、野原耕作(二通)、茂木秀司、千葉寿央及び三宅桂子(二通)に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書四通(12から16)

一  茨木税務署長作成の証明書三通

判示第二の各事実について

一  収税官吏作成の被告人に対する質問てん末書三〇通(97から107、109、111、112、114、116から118、122から126、128、129、131から135)

一  収税官吏作成の岩崎喜代恵(47)、栗田光久、阿部慧及び浅谷直弘に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書二六通(18から20、22から24、27から46)

一  登記官作成の不動産登記簿謄本九通

判示第二の一の事実について

一  生野タミエ作成の昭和五九年五月一五日付受領書

一  吹田税務署長作成の証明書(9)

判示第二の二の事実について

一  生野タミエ作成の昭和六〇年六月一五日付受領書

一  吹田税務署長作成の証明書(10)

判示第二の三の事実について

一  生野タミエ作成の昭和六一年八月五日付受領書

一  吹田税務署長作成の証明書(11)

(法令の適用)

被告人安間の判示第一の所為は法人税法一五九条一項に、判示第二の各所為は所得税法二三八条一項に該当するので、判示第一の所為については所定刑中懲役刑を選択し、判示第二の各所為については、所定の懲役刑と罰金刑を併科し、なお罰金額について同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第二の各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金八〇〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人安間の判示第一の所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社を罰金八〇〇万円に処することとする。

(判示第二の各事実に関する弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、判示第二の各事実につき、生野タミエに支払った賃料(判示第二の一及び二の各事実につき各五四万三二〇〇円、同第二の三の事実につき八一万四八〇〇円)が支払地代として追加計上されるべきであり、また、判示第二の一の事実につき、公訴事実中の実際所得金額には、利子収入として井上陽子名義の定期預金利息五三四二円が計上されているが、右預金は同被告人に帰属するものではないから、利子収入から五三四二円が減額されるべきであると主張するところ、前掲の関係各証拠によれば、右各主張はいずれも理由があるので、判示のとおり、実際所得金額、所得税額及びほ脱税額を公訴事実記載の各金額よりも減額することとした。

二  次に、弁護人は、有価証券の譲渡による所得に対する課税につき、昭和六三年法律第一〇九号所得税法等の一部を改正する法律による改正前の所得税法九条一項一一号イは、有価証券の譲渡による所得のうち非課税とされない所得として「継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるもの」と規定し、これを受けた昭和六三年政令第三六二号所得税法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令による改正前の所得税法施行令二六条は、一項において「法第九条第一項第十一号イ(非課税所得)に規定する政令で定める所得は、有価証券の売買を行う者の最近における有価証券の売買の回数、数量、又は金額、その売買についての取引の種類及び資金の調達方法、その売買のための施設その他の状況に照らし、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とする。」と規定し、二項において「前項の場合において、同項に規定する者のその年中における株式又は出資の売買が次の各号に掲げる要件に該当するときは、その他の同項に規定する取引に関する状況がどうであるかを問わず、その者の有価証券の売買による所得は、同項の規定に該当する所得とする。一 その売買の回数が五十回以上であること。二 その売買をした株数又は口数の合計が二十万以上であること。」と規定していたが、右所得税法九条一項一一号イは、原則として非課税・不可罰の対象とされていた有価証券の譲渡による所得について、「売買の継続性」という抽象的で不確定な概念を以て課税要件を定めたにすぎず、委任の方式が抽象的、一般的であって著しく明確性を欠き、課税と科罰に関する裁量を行政機関の恣意に委ねたものであるから、罪刑法定主義及び租税法律主義に反し、憲法三一条、三〇条、八四条に違反し、さらに、右の所得税法施行令二六条二項は、売買の実情を顧慮することなく営利を目的とした継続的行為と認める旨規定している点で、法律の委任の限度を逸脱するものであると主張する。

しかしながら、右所得税法の規定は、継続して有価証券を売買することによる所得が課税の対象となることを法律自体において明示した上で、その課税の対象となる所得の範囲を更に明確にすることを政令に委任したものであって、このような法律の定めが憲法上許されることは最高裁判所の判例(最高裁判所第三小法廷昭和五九年三月一六日判決・裁判集刑事二三六号一七九頁、同大法廷同三〇年三月二三日判決・民集九巻三号三三六頁、同大法廷同三三年七月九日判決・刑集一二巻一一号二四〇七頁)に徴し明らかである。また、右所得税法施行令二六条一項は、前記所得税法に規定する政令で定める所得とは、同項に示す実質的基準に照らし、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とすると規定していたところ、同条二項は、一項を受けて、有価証券の売買を行う者の株式等の売買の回数及び株数等の形式的基準により、その者の有価証券の売買による所得が一項の所得に当たる場合を規定し、もって、課税の対象となる有価証券の継続的取引による所得の範囲を明確にしていたものであって、前記所得税法の委任の範囲を逸脱しているものとは認められない(前記最高裁判所第三小法廷昭和五九年三月一六日判決)。したがって、右主張はいずれも採用できない。

三  さらに、弁護人は、証券会社との間における有価証券の信用取引に関する各年末の未決済取引に係る債務(委託手数料、管理料、有価証券取引税、支払利息等)と債権(受取利息)の差額は、その年中における必要経費として計上されるべきものであるから、判示第二の二の事実については三三三万七八六八円、同三の事実については四五二万三六七七円が必要経費として追加計上されるべきものであると主張するが、信用取引により支払い又は支払を受けるべき金利等は、有価証券の売買に伴う付随費用又は収入ということができるから、当該信用取引に係る取得価額又は収入金額の調整項目として取り扱う(平成元年一二月六日所得税基本通達の一部改正による廃止前の所得税基本通達9-21参照)のが相当であり、かつ、信用取引に係る所得は、当該信用取引の決済の日の属する年分の所得とすべきもの(同基本通達9-23)であるところ、公訴事実記載の実際所得金額を算定するに当たっては、既に右のような取扱いがなされているのであるから、弁護人の主張は採用できない。

(量刑の事情)

判示第一の法人税法違反の犯行は、不動産賃貸料を除外したり、知人と通謀の上、特定資産の買換を仮装して租税特別措置法による課税の特例の適用を受けるなどして、三一〇〇万円余りの法人税をほ脱したもので、そのほ脱率は九四パーセントに達する。また、判示第二の所得税法違反の各犯行は、有価証券の継続的取引による所得のすべてを除外するとともに、不動産賃貸料や利子所得を除外するなどして、三期にわたり、合計三億四四〇〇万円余りの多額の所得税をほ脱したものであり、そのほ脱率はいずれも九七パーセントを超えるのみならず、一年分のほ脱額が二億六三〇〇万円余りの高額に及ぶ昭和六一年分については、九九・五パーセント余りという高率に達する。被告人安間の刑責は相当に重いものがあるといわざるを得ず、懲役の実刑を以て臨むことも考慮されて然るべき事案とも考えられる。

しかしながら、他方では、昭和六一年分の所得税法違反以外の各事実については、いずれもそのほ脱額が特に大きいとまではいえない上、所得税法違反の大部分を構成する有価証券の継続的取引による所得の除外については、この種取引による所得の成否やその金額が景気の変動や市場の思惑に左右されがちな面があることを否定できず、損益通算も認められていないこと等を併せ考慮すると、たまたま昭和六一年分のほ脱額が高額に達しているからといって、そのほ脱額を額面どおりに評価して被告人の刑責を量定することには疑問が残らざるを得ない。また、被告人は、調査の当初からおおむね事実を認め、本税・附帯税についても実質的にその全てを納付している外、現在では反省もしていることなど、有利な事情も認められる。そこで、これらの諸事情を総合考慮した上、被告人安間については、相応の懲役刑はとうてい免れないものの、その執行を猶予するのが相当と認め、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 的場純男)

別紙<1>

修正損益計算書

<省略>

別紙<2>

税額計算書

<省略>

別紙<3>

修正損益計算書

<省略>

別紙<4>

修正損益計算書

<省略>

別紙<5>

修正損益計算書

<省略>

別紙<6>

税額計算書

<省略>

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